Mentha Spicata

自分がやったお仕事原稿のフォローアップなどを掲載していきます。

OS Xのインストールを(なるべく)簡略化する

職業柄、年間1,000回以上はOSの初期化インストール作業をする氷川です。

少し前になりましたが、Mac Fan 2012年9月号にてMountain Lionの特集記事をお手伝いさせていただき、Q&Aなどのページを中心に書かせていただきました。紙面の都合であまり細かく書けなかったOSのインストールの話を補完しておこうと思います。

インストールディスク新時代

Mac OS X v10.7 "Lion" 以降いわゆる「インストールメディア」というものは基本的になくなり円盤の形でのOSの配布がアップルの歴史から消えました。…まあDVD自体読み込み遅いですし最近ではMacBook Airみたいにゼロスピンドルモデルが出てきて、インストール用のメディアもUSBメモリにしてみたり…と紆余曲折あったようですが、最終的には「インターネット上から復元する」というアップルご自慢のテクノロジーであるNetBootを応用した技術で、メディアレスまで持っていくというリカバリ方式を採用したのは、画期的ではあります。

より高速なインストールディスクの作成

インターネット上でNetBootするというテクニックはそれはそれで別エントリにしたいくらいネタはあるのですが、今回はインストールという目的に注目してみましょう。

このリカバリ方法は、手軽さの面では大変に便利ですがオフラインで扱えないことと、速度面ではDVDとあまり変わらない、もしくは大変遅い、最悪モバイルルータとかだとタイムアウトして一生リカバリできないなど弱点も存在します。そこで紹介したのが、Mac Fan 2012年9月号のP.57にある「フルインストールのディスクは作れないの?」というセクションでした。

OS X 10.8のインストーラである「OS X Mountain Lion インストール.app」はそのアプリの中にLocal NetInstallを実行するためのInstallESD.dmgというファイルを持っています。アプリケーションを右(もしくはCtrl)クリックして表示されるコンテクストメニューから「パッケージの内容を表示」を選択して中身を確認することが出来ます。これを「ディスクユーティリティ.app」を使って任意の外部ディスクに復元してやることで、オフラインでも高速なOSをインストールする手段を手に入れることができます。

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この方法、実は以前のインストールCDやDVDでもよくやっていた方法で、低速な光学メディアを使うのではなく、FireWireやUSB(最近ではThunderboltもありますね)接続の高速なハードディスクに、ディスクイメージを復元・展開して起動することで、インストール作業に必要な時間を大幅に短縮することが可能になります。

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昨今ではVMware Fusionなど仮想化ソフトウェア上でロールバックするなどの手法も取れるため、検証のために毎回初期化インストールする必要もなくなりつつありますが、そうはいっても実機でテストしたり、本業では対象端末の初期化インストール作業を頻繁に行う必要があるため、こういったテクニックは有用です。事実、充分に高速なHDDから復元を実施すれば、最近のMacであれば10分程度で初期化インストールが完了します。

このため難易度の高い障害の復旧に際し、だらだらとトラブルシューティングを実施するより、初期化してしまったほうが復帰まで早くなりつつあるというのは、最短での回復もひとつのゴールである現場のサポートとしては有り難い話だったりします。SEとしては負けた気がしますが、世の中には制限時間15分で障害を切り分けて結論を出さないと行けないサポート部隊も存在するので、現実は厳しいものです。

もう少し便利な(自分好みの)インストールディスクを作る

この方法でインストールすると(当たり前ですが)、「Mac Buddy」と呼ばれる初期セットアップが必要になります。個人で検証するのに毎回このセットアップ画面で同じ情報を入力するのは苦行に近いものがあります。また、OS Xのインストールディスクに含まれていないアプリケーション(iPhotoとかiWorkとか)を毎回インストールするのも面倒です。そこで考えられる手法が、ある程度セットアップが完了したシステムをディスクイメージとしてクローニングして復元する方法です。

この場合に必要なのは

  • イメージ元となるシステムがインストールされたMac
  •  OS Xのインストールディスク(もしくはアプリ)

のどちらかが必要になります。前者の場合は細やかな調整が可能になりますが、反面作業工数が多かったり、2台のMacが必要なため別エントリで改めて紹介しようと思います。今回は後者でカスタマイズしていきます。

OS X 10.8 "Mauntain Lion" はいままで別途ダウンロードが必要だった「システムイメージユーティリティ.app」が付属しています。これはMac OS X ServerのNetBoot機能を使って起動、インストール、リストアなどの作業を自動化するためのイメージファイルを作成するためのものですが、今回はこれを流用します。

まずMountain Lionのインストールアプリをダウンロードした状態で、 /System/Library/Core Services/ の中からシステムイメージユーティリティを起動しますると、どのタイプのイメージを作成するのか確認してきますので、今回はNetRestoreを選択して「続ける」をクリックしてみました。

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次にNetRetoreをしようしたときの配布用のイメージの設定を聞いてくるので、ラベルは(今回は使わないので)適当に、そして管理者アカウントやパスワードを設定して、イメージの作成を任意の場所に展開するので実行させます。

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あとは任せるだけでOKです。マシンの性能にもよりますが、30分以内には終わるんじゃないでしょうか。.nbiなフォルダが出来上がれば準備完了です。この中に「NetInstall.dmg」というファイルがあり、これを普段はOS X Serverの所定の場所に置くことによってNetBootし、復元を実行するのですが、今回はこの中から復元用のイメージ本体だけを抜き出します。NetInstall.dmgをダブルクリックするなりしてマウントすると、Packagesに「System.dmg」があるはずです。中を開いて確認してみると、アカウントも既に作れていることがわかるはずです。

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このSystem.dmgは読み出し専用のイメージファイルなので、ディスクユーティリティにあるディスクイメージの「変換」機能で、読み書き可能なイメージのコピーを作成します。

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これでこのボリュームに対してアプリケーションの追加が可能になりました。Mac App Storeで購入したアプリケーションであればドラッグ&ドロップで追加できるので本当に良い時代になりましたね(実際に使う際には初回だけApple IDの認証が求められます)。インストーラ形式のアプリも特殊なものでなければボリュームを指定すればインストールできるはずです。

あとは復元するだけ

カスタム化されたリストアイメージは外部の起動ディスクからディスクユーティリティの復元機能を使って戻してあげることができます。この際のコピーはブロックコピーな上に、ログを作成する時間がないためさらに高速になります。

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昨今はセキュリティアップデートや新サービスに伴う機能の追加などでアップデートの頻度が以前よりも多く、個人が時間をかけてリストアイメージを準備する意味があるかどうかは微妙なところですが、わずかなアップデートであればソフトウェア・アップデートを実施するのは誤差の範囲ですからクリーンな環境を用意したい完璧主義者の方には大変お勧めなソリューションです。

また世の中には氷川のように、プリインストールされるアプリケーションをカスタマイズして納品したり、システムやアプリケーションのテストをするために頻繁に初期化が必要になるなどの特殊部隊で働く方には便利な手法ではないでしょうか。

余談。

この手順だと「Recover HD」とか「復旧 10.8」と言われる復旧用パーティションが実は作られません。これを作ってあげるにはOS X Serverを経由してNetRestoreやNetInstallで復元してあげないといけないようです(ほかに良い方法が無いかどうかは現在テスト中です)。

復旧用パーティションがないと

  • FileVault
  • Macを探す(Find my Mac : iCloud経由による紛失時対策ソリューション)
  • 復旧用パーティションを使った単独の作業

こういったものが利用できません。デスクトップマシンなどであればこれらの機能はほぼ不要だと思いますが、トレードオフがあることも覚えておきましょう。なかなか万能のソリューションというのはないものなのですね。人生は厳しいものです。