Mentha Spicata

自分がやったお仕事原稿のフォローアップなどを掲載していきます。

Mac Fan 3.0 はじめました

新年あけましておめでとうございます。ブログの最終更新日を見たら2013年5月となっており、いつか公開しようと思って溜めておいた下書きもすっかり風化するなど、締め切りのない仕事だと自己管理がまったくできないことを露呈した氷川です。

そのかわり、と言ってはなんですがブログ以外の媒体各所では毎月のように技術記事を書けくお仕事が途切れることなく続いています。影響力のあるエンジニアでもなければ、アクセス数の稼げるブロガーでもない、ただの会社員兼業ライターに毎月声をかけていただけるのはたいへんありがたいことです*1

ふと振り返れば、もう5年近くこのお仕事に関わってきました。そんな折に、12月からこの分野でライターと並行して新しい業務にチャレンジさせていただく機会をいただき「情報メディアとは何なのか」を考える日々を過ごしており、自分自身の過程の記録も兼ねてエントリーを残そうと思います。

技術情報誌のターニングポイント

記事ごとのアクセス数を見る限り、このブログをチェックされている方のほとんどはMacユーザのみなさんのようですので、ご存知の方も多いかもしれませんが、2014年はMac系のメディアにとっては大きな事件が起きた年でした。

9月29日、20年近く続いたアスキー・メディアワークスの「Mac People」が休刊しました。少し前から編集部が週刊アスキーと統合されるなど、風向きもよろしくなく兆候が見られたともいえますが、休刊の前号で紙面展開もリニューアルを敢行した直後のことだっただけにみなさんの驚きも多かったようで、年末の話題には必ず上がるほどのインパクトがありました。

この結果として残された最後の一誌となったのが、マイナビの「Mac Fan」です。こちらも実はひっそりと6月にリニューアルしていましたが、さらに10月末で2代目編集長である林正明こばやしまさあきさんが編集後記で世代交代を宣言、副編集長から昇格した3代目の原清はらきよしさんへとバトンタッチされました。

いまさら強調するほどでもありませんが、世間はすっかり出版不況です。ウェブが発達した昨今、速報性において紙媒体である雑誌が勝てる要素ははっきりいってゼロ。注目度が高く、ページビューも稼ぎやすいアップル関連ネタは基調講演のライブカバレッジを筆頭に、リリース前後で必要な情報がリアルタイムで配信できなければまったく勝負になりません。

この前提を念頭に入れず、既定路線であるただの「Mac製品情報誌」ではウェブと差別化できず、ただ負けていくだけでした。その結果のひとつが「読者離れ」を急速に起こしたMac Peopleの休刊なのは間違いないでしょう。ですが、このままMac Fanも同じ道を歩くのでしょうか。先代の小林さんが、世代交代を決意したのもここにあります。IT系雑誌業界はいま、再編と生存戦略の真っ只中に放り込まれており、色々な意味で目が離せない状況です。

「生き残り」のための指名

既存の路線を脱却するための改革には、過去10年にわたって雑誌の方向性を決めてきた編集長その人が「過去の遺産レガシー」であり、ボトルネックになりかねません。このまま後任が育つのを待っていては衰退は免れず、消滅の危機が対岸で現実化されています。ならば「雑誌」を次のステージへと進化させるにもこのタイミングで編集長を交代し、若手の持つ可能性に委ねようという判断は、まさに時代の後押しとも取れます。生まれ変わるならまさにいま、なのです。

とはいえ不安材料が無いわけでもありません。古くから「玄人好みのPeople、ビギナー向けのFan」と両誌が評される通り、技術的な裏付けや奥深さという点でMac Fanは甘さがあり、People亡き今、この部分を補完できるスタッフの存在が求められました。「Mac雑誌」としてのクオリティの維持。これなくしては存在意義がないわけですから、この分野での人手不足はかなり深刻な問題です。

勘の良い方はここまででだいたいお気づきかと思いますが、この「クオリティ管理」の担当者に白羽の矢が突如立てらてたのが、氷川です。正直なところ編集長から呼び出されて指名された時には、本人が一番びっくりしましたが*2、これも「新しい風を入れる」一環なんだと思って、委託業務として引き受けることにしました。

ウェブ媒体ではできないことを

紙のメディアに期待するものとは何でしょうか。当ブログもそうですが、ウェブにある情報のほとんどはタダで読むことができるのが一般的です。それに対して、雑誌はわざわざ「お金を払って」読んでいただくものです。それが同程度のレベルでしかサーブできないようであれば、IT誌であるMac Fanが死ぬのは時間の問題です。情報のインデックス化や検索もできないアナクロ媒体をニュース記事を追うためだけに購読を続ける方が数万人単位でいるとは到底思えません。

むしろ有限のスペースであれば情報を精査し、ある程度のスパンで観測したトピックを深い洞察や考察を含めたテイストで提供する「カラーのあるキューレーション」のほうが価値があるのではないでしょうか。ググればわかる話も、系統立てて情報を整理し読みやすくすることで情報収集の手間が減るのは、後手に回る月刊誌ならではのメリットです。

また、雑誌には「出会い」があります。ウェブであれば興味のない記事はクリックすらされませんが、紙媒体であれば偶然めくったページの先に新しい世界があるかもしれません。好みの部分ももちろんありますが、お金を払って読んでいる媒体は得てして隅から隅まで読みがちなのは、身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。

氷川は、既存のMac Fanの在り方を全否定しているわけではありません(するつもりもありません)。ですが、せっかく紙の媒体でやっているわけですから、その利点はもっと大きく生かしていくべきだと思っています。平均で見れば減少傾向にある雑誌の発行部数ですが、その一方で売り上げを伸ばしている成功事例もあります。まして、まだ10万部を超える雑誌も少なからず存在するわけで、紙媒体が死んでしまったわけではありません。

ネットワークがある時代だからこそ

がっつり力説してはいますが、Mac Fanが紙媒体メインだからといって本当に「紙だけ」に固執するつもりもありません。まとまった情報を読む媒体としては、ウェブだけでなく電子書籍も配信手法として一般化しつつあり、ここも意欲的に開拓するべきだと考えています。

また、メディアとはコミュニケーションの一種でもあります。単にこちらから一方的に情報配信するだけでなく、SNSなどを通じて読み手側の「生の声」を活かしたアプローチも紙媒体で使ってはいけないというルールはありませんし、むしろ月刊誌ならではの使い方もあるのではないでしょうか。すでにこのあたり上手に使われている出版社さんとそうでないところで明暗も分かれているので、ぜひ編集部のみなさんには頑張ってほしいところです。

とりあえず読んでみてほしい

技術解説記事でもないのにつらつらと書いていますが、とりあえず「どんどん面白くしていくので読んでほしい」というのが率直なところです。小林さんからも「林信行(@nobi)みたいな仕事ぶりを期待」とか言われていて*3、ややハードルも高いのですが「自分が欲しいものを作る」というプリミティブな心を忘れずに邁進するつもりです。

今日に明日に結果が出るわけではありませんが、次号から徐々により良くなったMac Fanがお届けできるようになるように、目下さまざまな企画を進行させています。今まで読まれていた方も、そうでない方もご支援いただければと思います。よろしくお願いします。

 

 

 

*1:うっかり引き受けすぎると、ひとつ終わるとまた次の締め切りがやってくる連鎖地獄に巻き込まれるので要注意です。

*2:そもそもFaceBookのメッセージで「今日夜時間ある?」と編集部に呼び出されて、そのまま下階の居酒屋でこんな大事な話されるとかあまり聞いたがありません。

*3:この話を当の @nobi に相談したところ「あんた、どんだけ兼業の手を広げてるの」と苦笑されたのはナイショです。