Mentha Spicata

自分がやったお仕事原稿のフォローアップなどを掲載していきます。

Gene Mapper関連書籍を出版しました

ライター稼業を始めて数年経ちましたが、「人生塞翁が馬」を地で行っている気がする氷川です。単にこの業界が狭いだけなのかもしれませんが、とにかく日々驚くことが多いものです。そんな本エントリは、いつもの技術ネタではなくお知らせを兼ねた内容ですが、「電子書籍」ネタでお届けします。

本を出しました

今回出した本は「藤井太洋インタビュウ ― Gene Mapperの舞台裏 」というタイトルで、達人出版会さんから電子書籍版として販売開始していただきました。

藤井太洋インタビュウ ― Gene Mapperの舞台裏
氷川りそな
達人出版会
発行日: 2013-05-07
対応フォーマット: PDF, EPUB

日本の電子書籍の常識を打ち破り、ここ数ヶ月ですっかり「時の人」になった感のあるSF作家(ってもう呼んで良いですよね?)、藤井太洋さんの処女作でもある「Gene Mapper」が発売された約1ヶ月後の2012年の9月上旬にインタビューさせていただいたものを再編集し、文庫本換算で100ページ(約62,000文字)程度のボリュームに仕上げたものになります。

「Gene Mapperの関連書」とも言える本書は、3時間というインタビューの中で、あえて単一のテーマに絞らずに、「Gene Mapper」「電子書籍」「ビジネス」などをキーワードにしてさまざまな切り口から藤井さんの視点から見る「今」を語っていただいています。その結果、作家にしてマーケッター、そしてデザイナーとしての側面を持つ同氏のスキルを垣間見る文献として、興味深いものになったと思います。

インタビュー時期こそ古いものになりますが(この本がなぜ今になって出たのか、という理由に関しては、本書の「あとがきにかえて」をご覧ください)、今日現在においてもこの内容は「電子書籍を作ってみたい」という方には大いに参考になるのではないかと思います。もちろん本編「Gene Mapper」の副読本としてごく初期の空気感を知るために読んでいただいても、楽しめる内容です。

Gene Mapper -core- (ジーン・マッパー コア)

Gene Mapper -core- (ジーン・マッパー コア)

Gene Mapper -full build- (ハヤカワ文庫JA)

Gene Mapper -full build- (ハヤカワ文庫JA)

初の個人名義、セルフ・パブリッシング

書籍としては「iLife 入門・活用ガイド」TART DESIGN OFFICEさんの本をお手伝いさせていただいたのをきっかけに「iMovie マスターブック」「iPad Fan ビギナーズ」などをやらせていただいたり、PhotoshopIllustrator関連の書籍のお手伝いをさせていただいたりと、本の形になったものはそろそろ20冊になると思います。が、いずれも共著だったこともあり表に名前が出てくることはありませんでした。

そのため氷川の個人名義で本を出すのは初めてになります。しかも電子書籍によるセルフ・パブリッシング。これを実現していただいたのが達人出版会の高橋征義さんです。そう、「日本Rubyの会」代表にして「高橋メソッド」のあの人です!

実は高橋さんに面識があったわけではなく、はじめてお会いしたのは4/11の「(白石俊平と)カッコいいやつら」というイベントでした。登壇者が、藤井さんと高橋さんという「電子書籍の最前線の人たちに話を聞く」というもので、ちょうど氷川も参加していました。

このときに友人を介して高橋さんを紹介していただき、名刺交換をした際に「実はむかし藤井さんにインタビューした記事があるのですが…」と話をしたところ「(ものすごく長いメモデータをみて)結構分量ありますね。それ、うちで出しませんか?」とご提案いただきました。所要時間5分。まさにスピード展開です。

その後打ち合わせをメールベースで何度か行い、4/17から作業をスタート、初稿として出したのが4/24、関係者のレビューをして第2稿としたのが、4/30。そこからPDF版とEPUB版を生成して、レイアウトの生成や文字校正を行ってリリースしたのが5/7。企画の立ち上げからリリースまで30日を切るという「電子書籍でなければできない」異例のスピードでの仕事でした(このあたりのいきさつは達人出版会日記のほうでも高橋さんが、書かれるそうなので、チェックしていただけると双方の視点で見えて面白いと思います)。

「デジタル」という利点

この速度面はやはり電子書籍の利点です。原稿の60%がほぼ終わっていた(3時間の会話のうち、手が付いていなかった最後の1時間分のみで約14,000文字)こと、総数も100ページ弱と、そう多くはなかったことも大きいですが「これで出しましょう」という判断ですぐにリリースコントロールできる強さは、紙にはないメリットです。

価格に関しても高橋さんと協議を重ねた結果、定価450円、セール価格250円でスタートするという手軽さを実現できています。これは紙の書籍だとおそらく雑誌の特集パートか、もう少しさまざまな資料などを追加し、「Gene Mapper設定資料集」みたいなボリュームにしないとビジネス的にペイできません(まあ、だからといって電子書籍を250円で売ってコスト回収できるの? というのは話が別なのですが…)。

Gene Mapperの読者の皆さんの中から、興味のある方だけにでもリーズナブルな形で関連書を提供する今回の試みは、これから先の「300円以下で買える電子書籍」のベンチマークとしても何らかの指標になればいいと思っています。

悩んでいるひとは達人出版会に相談だ

ひとつ、電子書籍の問題として抱えているのが収入のサイクルです。紙の場合は最初に「まとめて刷って売る」ことができるので、筆者への支払いは最低保証があるわけですが、大手の電子出版プラットフォームはこれがなく、藤井さんもことあるごとに「自費出版ではまだ食えない」と指摘する要素ともなっています(これに関しては氷川個人も試算したデータがあるので、別のエントリーを立てます)。

そこでおすすめしたいのが達人出版会さんからの出版です。達人出版会はこの問題点をカバーするべく「最低100部ぶんは最低保証する」という仕組みを持っています。自分の本が売れるかどうかわからない不安の中でリリースを開始するよりも、ハードルがぐっと下がります。これは「現状の相場」ではありますが電子書籍がより一般化すれば最低保証部数も200、300と増えていくでしょうし、同様の保証するチャネルも複数出てくるでしょう。

電子出版プラットフォームはAmazonやiBookstoreなど大手でも複数のチャネルがあり、読者層もかぶらないことが一般的な現状です。複数展開などをしたことがない「販売の初心者」の方であれば、まず感触を掴むことも含めて達人出版会の門戸を叩くことをお勧めします。

そして次のプロジェクトへ

現在「藤井太洋インタビュウ ― Gene Mapperの舞台裏 」はβ版という扱いになっています。これからもう一度構成や語彙の調整、そして写真やスクリーンショットの追加などの作業を行って、バージョン1.0までアップデートさせていきます。

同時にAmazonやiBookstoreでの展開も考えています。これは大きなプラットフォームだから、というだけでなくKindleiBooksなど専用の環境に最適化されたEPUBデータを提供したいからで、おそらく個人プロジェクトではなく、引き続き高橋さんと共同で作業をおこなってリリースしていく形になるでしょう。

そして、今回の反応をみて次の書籍のプロジェクトを準備開始しています。こちらもインタビューものなのですが、英訳もの、アップル好きの人には嬉しい本になるかも知れません(と、書くと勘のいい方は気づくかも知れませんが…)。こちらに関しては関係筋との調整が付いた時点でまた改めてご報告させていただこうと思いますが、ご期待いただければと思います。